研究内容
「見えなかった物、見えなかった現象を見えるようにするのが仕事です!」
長年、ダイヤモンドや化合物半導体を原材料の純化から始め、結晶育成、デバイス化しシステムに組み込んでいく仕事をしていました。ここ数年、原子炉過酷事故対応や福島第一原子力発電所廃炉事業からのニーズに対応するため、ダイヤモンド半導体デバイスとそれを使用した電子機器開発に主軸が移ってきています。さらにダイヤモンド半導体を中心としたスタートアップ企業(大熊ダイヤモンドデバイス社)を立ち上げたことから、応用先として通信や高速充電等のパワー半導体関連の仕事にも携わるようになっています。
※アポロ計画とは、1961年~72年にアメリカ航空宇宙局(NASA)により実施された人類初 の月への有人宇宙飛行計画。関連技術の開発に拍車をかけ、電子工学、遠隔通信、コンピ ュータの発展、
統計手法に基づく信頼性工学など多くの工学分野の発展につながった。
ダイヤモンド半導体デバイスの開発と応用
原子炉過酷事故対応、福島第一原子力発電所廃炉事業などで使用する電子機器応用を念頭に耐放射線・高温動作可能なダイヤモンド半導体デバイスの開発に取り組んでいます。図1は研究室の学生がクリーンルームに籠り、製作した水素終端表面伝導型ダイヤモンドMOSFETと呼ばれるトランジスタです。単純な形をしていますが、製作には50~60工程が必要でどこか1か所しくじると動作しなくなるため、一工程、一工程条件を詰めてデバイスを作り込んで行きます。
図1 RADDFET上面図
図2は図1と同じダイヤモンドMOSFETを搭載した世界最初のダイヤモンドトランジスタ搭載増幅器です。共同研究先である産業技術総合研究所ならびに高エネルギー加速器研究機構の先生方のご指導の下、研究室の学生が製作、論文発表もしました。
図2 ダイヤモンドトランジスタ
現在、これらの技術をさらに進化させ300℃以上で動作するダイヤモンド搭載増幅器の開発を大熊ダイヤモンドデバイス社と共同で進めています。この開発に成功すると遅々として進まない原子炉過酷事故に対する対応を進めることが出来ます。さらに排熱が大変な宇宙空間での人工衛星での利用の他、ダイヤモンド半導体搭載回路を高温で動作させ冷却機器を大幅に軽減する効果も期待できることから携帯電話の地上基地局での使用などの道も開けます。
また最近、ダイヤモンドデジタル集積回路の開発も始めました。これは廃炉、火力発電所等のメインテナンスに使用するロボットの制御、さらに通信衛星等への応用が期待されています。 通信関係では図3、4に示すように高周波用ダイヤモンドトランジスタの製作、評価などにも取り組んでいます。高周波トランジスタの知識が十分でない時期に試作したダイヤモンドFETですがカットオフ周波数:1.86GHzありました。現在は、大熊ダイヤモンドデバイス社、東北大学、名古屋大学等と連携して衛星通信用の高周波トランジスタの開発に参画しています。
図3 高周波トランジスタ
図4 ダイヤモンドトランジスタの高周波特性
ギガヘルツ帯での動作を確認
ダイヤモンド単結晶の育成と放射線計測機器への応用
図5 マイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンド合成の様子
これまで、30年近く核融合プラズマ診断用途を念頭に置いたダイヤモンド放射線検出器の開発を続けており、図5に示すマイクロ波プラズマ化学気相(CVD)合成装置を使用して放射線計測用ダイヤモンド単結晶を合成しています。2015年にようやく納得のいく性能の検出器の開発に成功しました。シリコンと比較すると、まだ理想的な電荷キャリア輸送特性を持ったダイヤモンドとは言い難いものの世界でほぼ唯一500℃で安定して放射線のエネルギーを計測できる検出器を製作可能です。
「僕たちは朝起きて、顔を洗って、ご飯を食べて、歯を磨くのと同じようにダイヤモンドを作っています。」うちの学生さんの言葉です。いやはや、素晴らしい。
現在、この技術に基づき合成・製作したダイヤモンド検出素子を搭載した臨界近接監視モニタの開発を進めています。この装置は図6に示すように福島第一原子力発電所のデブリ取り出し作業に当たり、臨界近接度を測定するために使用します。マジックハンドに取り付け、狭隘なペネトレーションを通し炉内に挿入するため、検出器重量を数kg以下に抑える必要があります。さらに最大1kGy/hの猛烈なγ線線量率環境で微弱な中性子信号をとらえる必要があるため高エネルギー加速器研究機構が開発した耐放射線シリコンASIC回路と我々研究室で開発したダイヤモンド検出素子を組み合わせて使用します。開発には産業技術総合研究所、名古屋大学、九州大学、原子力開発研究機構が共同で当たっています。
図6 臨界近接監視モニタのモックアップ検出器(KEK田中先生他・設計製作)
TlBr(臭化タリウム)化合物半導体の合成と放射線計測応用
図7 TlBr(臭化タリウム)γ線検出器
環境放射線測定や核医学診断装置や使用されるTlBr(臭化タリウム)化合物半導体放射線検出器の商用化を念頭に置いた開発です。TlBrは高い密度、高原子番号から高いγ線検出効率を持ち常温動作が可能であるため、可搬型γ線スペクトロメーターとして期待されています。また、心臓病診断に使われる単一光子放射断層撮影(SPECT)装置や、癌やアルツハイマー病の診断などで使われる陽電子消滅断層撮影(PET)装置などの核医学診断装置への応用も目指しています。ダイヤモンドやシンチレータ開発で培った結晶合成技術を持つ当研究室と世界的パイオニアである東北大学が共同して図7に示すTlBrを合成・評価しながら実用化に向けた開発を進めています。TlBrに関しては近々2つ目の金子研究室発ベンチャーが製造・販売する予定です。山石社長、頼んだよ!
希土類酸化物シンチレータの開発と応用
研究室で開発を進め、最終的に実用化まで至ったGd2Si2O7:Ce(Gadolinium pyro silicate, GPS)シンチレータを紹介します。シンチレータとは放射線が入射すると光を出す物質で、環境放射能測定や医療診断装置などで使用されています。我々が開発したGPSシンチレータは300℃でも高い発光量を持つことから、地下に潜るほど温度が上がる石油・天然ガス探索で小型加速器などと組み合わせて使用されており、連携先であるオキサイド社から販売されています。
GPS - 株式会社オキサイド (opt-oxide.com)GPSシンチレータの派生技術として開発した図8に示すLa-GPS焼結体シンチレータを使用した図9の可搬型α線エネルギー・分布測定装置の開発を日本原子力研究開発機構等と進めています。図9に示すこの装置は福島第一原子力発電所廃炉事業などで作業員の衣服・体表の汚染を現場で迅速に行い、プルトニウムの吸引の有無を判断する事が期待されています。2024年度中にプロトタイプを完成し、数年の内に実際の廃炉の現場で使用される事を目指しています。GPSシンチレータの開発は本学・応用化学院の樋口幹雄先生と15年以上に渡る共同研究の成果です。
図8 La-GPS焼結体シンチレータ
図9 可搬型α線エネルギー・分布測定装置
手間と時間のかかるハードウェア開発であり、かなり忙しいテーマです。結晶合成ではチームを組み、学生・教員が一丸となり議論しながら有機的に開発を進めて行きます。ダイヤモンド並みの固い結束と明るい雰囲気が当研究チームの特長です。
マネジメント
知識は成果の到達上限を決める重要な要素です。一方、成果を上げるためにはその「方法」を身につける必要があります。そのカギはセルフマネジメントです。これを学んでもらうために通常のゼミに加え、P. F. ドラッカーの「経営者の条件」 (“The effective executive”) 等を使った読書会もやっています。さらに小樽商科大学大学院MBAコースとの連携による研究開発能力とマネジメント能力を兼ね備えた「スーパー人財」育成も進めています。モノづくりで頑張ってみたい学生さん、自分の価値を高めたい学生さん、社会へ巣立つための「リハビリ(?)」を必要とする学生さんに我々の研究グループはお勧めだと思いますo(^-^)o。
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